手のつめたさ

「さむい」と言った彼女の手が、
冷え症のわたしの手よりも更につめたくて、
せつなくなった。


夜中のファミレス。
外の寒気は、あたたかな室内までは入ってこないのに。



彼女の病名を聞いたのは、彼女の日記で だった。
それからわたしはその病気にかんするホームページを検索しまくり、泣いた。


何もできない自分に。
これからやってくるであろう、恐怖に対して、泣いた。



彼女の病名は、がん だ。



なんでだ。なんでだ。
まだ、20年そこそこしか生きてないのに、そんなことって、あるだろうか?
病名が判明する前に、「ふつうに大学出て、ふつうに就職して、っていうふつうの人生歩みたかった」と言っていた彼女、その彼女から、さらに“ふつう”を奪うのか。なんでなんだ。



35度前後の低体温の状態が、ガン細胞にとって快適な環境らしいということをどこかで読んだ。
冷えすなわち低体温、と一概にいうことはできないかもしれないけれど。
彼女が、コーヒーを飲んでいたことを思い出し、次からはコーヒーでなく紅茶をすすめようと思った。東洋医学ではコーヒーは体を冷やし、紅茶は体をあたためるのだそうだ。


けれど、お酒を絶ち、タバコもやめて、「かわりにコーヒーでも飲むよ」と言っていたのに、さらにコーヒーまでも奪ってしまって、いいのだろうか。
それでもわたしは、彼女に、すこしでもながく 健康でいてほしいから。言うだろう。
そこで、コーヒーを飲むか飲まないか、決めるのは彼女だ。



彼女はいま、ガンの再発をふせぐためにインターフェロン治療をしている。