仕事帰りに声をかけられた話

毎日、帰りは繁華街を通る。黒いスーツを着た兄ちゃんにつかまっている若い女の人をよく見かける。声を掛けるほうも掛けられるほうも大変だと思って通り過ぎる。
きのう、久しぶりに声をかけられた。若い女の人。ぼんやり考え事をしながら歩いていたのでビクッとしてしまい「ごめんなさい」と謝られた。キャッチセールスだろうか面倒くせと思って無視しようとすると「美容室のカットモデルを探してるんですけど」といわれた。カットモデル?たしか会社の先輩がカットモデルで無料でカットしてもらったとか言ってたっけな、研修生とかに切ってもらうやつ?いいや面倒だ。断ろうと思ったけど、「いえいえ」とかなんとか、言葉になってないような単語と手と首の動きだけで追い払ってしまった。今思えば、お姉さんに悪いことをした。
繁華街で声をかけられた時は、相手がどうだろうと、一切相手にしないことにしている。道で配っている物も、ティッシュ以外は受け取らない。明らかに道に迷ってる風な人には応えるけれども、そうでない場合は「すみません」の一言にも振り返らないようにしている。背後から声をかけられた時などは特に。
私も最初からこんなだったわけではない。道を尋ねてもろくな返答をしてくれない冷たい都会の人間にはなりたくない、と思っていた。だが、サラリーマン風の男の人に「すみません」と尋ねられて応えれば「僕の○○○ーを見てくれませんか」と言われたり、試供品を受け取っただけで無理やりエステサロンに連れて行かれたり、「姉ちゃんナンボや」と言われたり、宗教の勧誘だったり。そんな経験を重ねるうちに、他人の「すみません」を無視するようになった。門前払いにした人々の中には、ただ困って道を尋ねてきただけの人もいるかもしれない。こちらもできるだけ他人には善意を返したいとは思う。だが、声をかけられた一瞬で相手がどんな人間であるかどうかの判断ができればいいが、やはりある程度話を聞かないことには分からないし、そこまでの時間と労力を割いたところで結局は不愉快な思いをさせられることのほうが多いというのなら、最初から関わらないほうがいいと考えるようになった。
都会はこんなふうになってしまったが、ハイキングなどをして見知らぬ他人と挨拶を交わしたり話をしたりすると、なんだかホッとする。